天地耕作 六
AMATSUCHI KOSAKU 6
2002 年ー2003年
「天地耕作、まで」展に寄せて
浜松を中心に活躍する風変わりなランド・アート(アース・ワーク)のトリオがいると聞いたのは、当地に赴任してから間もない頃であった。浜松は、私にとって縁もゆかりもない街だが、この美術不毛の街で最初に考えついたことは、当地周辺にかつて存在した(あるいは、今なお存在している)美術家たちの足跡(夢の跡?)を辿ろうということだった。本人しか興味をもたないような論文を書きつらねるのも一興だが、美術館勤めが長かった私がなすべきことは、おそらく別のことであるだろう。そう思い立って、平成14年3月、大学ギャラリーで「幻触 1968年」展を開催した。「幻触」は、浜松ではなく、静岡周辺の美術家集団だったが、近年、再評価の動きがあらわれている。展覧会の詳しい内容については、『研究紀要』の2巻と3巻に掲載されている報告書を参照していただきたい。
ところで、先に述べた風変わりなランド・アートのトリオとは、『天地耕作』のことである。村上誠・渡兄弟と山本裕司の三人(はやりの言葉でいえば、ユニット)で結成された『天地耕作』は、浜松周辺にある彼らの私有地でひたすら芸術を耕してきた。自然が格闘と和解の相手であるという点では、広義のランド・アート(アース・ワーク)といえるが、当然のことながら、アメリカ産のそれ(マイケル・ハイザー、ロバート・スミッソンなど)とも、ヨーロッパ産のそれ(リチャード・ロング、ハミッシュ・フルトンなど)とも異なっている。欧米のランド・アートが、ミニマル・アートやコンセプチュアル・アートの文脈から
語られることが多いのに対して、『天地耕作』の作品は、美術とは異なる文脈からも読み取られている。彼らの作品の支持者は、生態学、哲学、社会人類学、考古学、そしてまた、詩の世界にも見い出せるのである。
見かけだけを考えれば、ランド・アート(アース・ワーク)、インスタレーション、エコロジカル・アートなど、彼らの作品に並行する美術を見い出すことは困難ではないし、現に、何人かの論者は、そうしたアプローチを試みている。ただ今回、村上(誠)から渡された多くの資料を通読して感じたのは、どの美術の系譜を辿っても、語り尽くせないところがあるということだった。とりわけ、造形を旨とする正系の美術の系譜においてそういえる。彼らは紛れもなく美術家だが、作品を美術というカテゴリーだけで括るのは無理があるように思われる。彼らの作品もまた、美術の言葉だけで語りづらいのである。彼ら自身、あるいは、美術のただなかに位置しない者たちこそ、彼らの作品の最良の語り手といえるだろうか。
一方、私はといえば、彼らの本意にそぐわないだろうが、村上(誠)が撮影した何枚かの記録写真に魅せられた。自然の支配下にある以上、彼らの作品が永続しないのはいうまでもないし、それは、先ほど挙げたランド・アートや、インスタレーションの宿命でもある。残されるのは、作品の写真や映像というわけだ。『天地耕作』の場合、作品はいうに及ばず、制作過程や制作場所を目撃(鑑賞より、この言葉の方が似つかわしい)することの意味は大きいし、現に、目撃者は、例外なく強いインパクトを受けている。ただ、彼らの作品は、気安く訪れることができる場所で制作されていないし、そのうえ、見せることを拒む作品も少なくない。
作品を目撃できなかった不幸な観客(私を含む)にとって、スケール(規模)や自然の気配など、大切なものをすべて無視する危険を承知したうえで、どこまで作品(の写真や映像)が放つ喚起力を感じ取ることができるか。『天地耕作』が単なる体験芸術プロジェクトでないとすれば、このささやかな記録展にも、それなりの意味はあるはずだ。またこれは、三人が集う、最初で最後の記録展となるだろう。展覧会のタイトル「天地耕作、まで」は、そのことを暗示している。
尾野正晴(美術史/静岡文化芸術大学)
記録展『天地耕作、まで』
2003年3月4日(火)-22日(土)
静岡文化芸術大学ギャラリー
主催:静岡文化芸術大学
企画:尾野正晴+尾野ゼミナール
Record Exhibition " Amatsuchi Kosaku, until "
March 4 - 22 , 2003
Shizuoka University of Art and Culture Gallery
Planning: Masaharu Ono + Ono Seminar Students
天地耕作・六
制作期間:2002年9月~2003年3月22日
現 場:村上渡《畑》私有地 ※非公開
山本裕司《道》私有地 ※非公開
村上誠《庭》浜松短期大学
“Amatsuchi Kosaku Ⅵ”
Production period: September 2002 to March 22, 2003
Site: Wataru Murakami "Field" private property
Not open to the public
Yuji Yamamoto “Michi” Private Land
Not open to the public
Makoto Murakami “Garden”
Hamamatsu Junior College
村上渡 《畑》
私有地 ※非公開
Wataru Murakami “Field”
Privete Land
村上 誠 《庭》
浜松短期大学
Makoto Murakami "Garden"
Hamamatsu Junior College
身 体 遊 戯
2003年3月22日(土)夕方~
浜松短期大学構内 《庭》
村上誠・村上渡・山本裕司・森口紋太郎(竹笛)
+森繁哉(舞踏/東北芸術工科大学)
Performance
March 22, 2003 Evening
Hamamatsu Junior College Campus “Garden”
Makoto Murakami, Wataru Murakami, Yuji Yamamoto, Montaro Moriguchi (bamboo flute)
+ Shigeya Mori (Butoh/ Tohoku University of Art and Design)